ヘッドボイス習得のための心理的ブロック解消法
高い声をしっかり出せるようになりたい、ヘッドボイスを習得したいという願望は、ボイストレーニングに取り組む人の大半が持っています。
そして、そのような人々が高い声を出す際に陥りやすいパターンが、ヘッドボイスを使えずに、いわゆる「地声」や「チェストボイス」を無理に引っ張り上げて高音フレーズを歌おうとしてしまうことです。その結果、
「高い声を出そうとすると苦しい」
「高い声は喉が痛くなる」
「高音は声がすぐにひっくり返る」
といった苦手意識が記憶されていきます。
実は、その「苦手意識」も「ヘッドボイス」をわざわざ出せなくしている場合も多いのです。つまり、高い声を出せるようになるためには、ヘッドボイスや高音に対する意識改革がとても重要だということです。
ヘッドボイスの日常的な使い方
たとえば、歌の場面以外でも皆さんはこれまでに様々な場面で簡単に無意識にヘッドボイスを出して来ています。
絶叫マシーンでのヘッドボイスの活用
子供の頃からこれまでで、絶叫マシーンやお化け屋敷で驚きや恐怖のあまり「キャー!」「ギャー!」「イヤー!」など絶叫した経験くらい、ほとんどの方がお持ちかと思います。
絶叫にもパターンがいくつかあるとは思いますが、そのほとんどは「とても強く響かせたヘッドボイス」です。
ライブイベントでのヘッドボイスの表現
屋外での大きな音楽フェスで会場全体が大盛り上がり!そしてステージにお目当てのアーティストがついに登場!会場もあなたも更にヒートアップして思わずスクリーム!「フォー!フォーーー!」
この時の高い声でのスクリームは「とても抜けの良いヘッドボイス」です。
ミーティング中のあくびで出たヘッドボイス
寝不足続きのまま長時間のミーティング。やっと休憩タイムになって伸びをしたら我慢していたあくびが思わず出てしまった。「ファーーーーァ」と鼻の奥の方で思わず高い音がなってしまった。
この時の高い音でのあくび音は「ラウドさせずに(叫ぶことなく)出せたヘッドボイス」です。
探せばまだまだ「無意識でヘッドボイスを出しているシチュエーション」は出てくると思います。
ヘッドボイスの心理的な壁の克服法
ヘッドボイスを出す際に、「音を外しそうで怖い」「喉が詰まって苦しそう」「難しいかも」という心理が働き、出るはずのヘッドボイスが出せなくなる人が非常に多いです。
苦手意識と固定観念(思い込み)が大きくなっているため、身構えたり、喉や下顎を力ませたりする「日常とは違う不自然なフィジカルアクション」をしてしまい、当たり前に鳴っていたものが鳴らなくなります。
特にヘッドボイスの響きをつくれない(出せない)理由の多くは「ブレスが足りない(息が使えてない)」ということであり、その原因として心理的な要素が大きい場合があります。
緊張したり、気合が入りすぎたりすると、大抵の人は「呼吸」が雑になります。(浅かったり、吐き過ぎたり)
「さあ、そろそろあの高い音が連続する大サビだ!」と思った途端に、気持ちも体も構えすぎて声がひっくり返った……そういう体験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?まさに呼吸の乱れです。これも、「勢いあまった」という心理的作用によるものです。
このような心理的な「壁」を作り出さないためにも、「深い呼吸にタイミングを合わせて発声する」というイメージで練習することと、「ヘッドボイスは、子供の頃から色んな場面で出している(使ってきている)声なんだ」というイメージで発声することが、平常心を維持することに繋がり、不自然なアクションを防ぎやすくなります。
『ヘッドボイスは怖くない! Don't scary Head voice!』
『ヘッドボイスは苦しくない! Head Voice is not painful!』
『ヘッドボイスは難しくない! Head voice is not difficult! 』
という気持ちがヘッドボイスの早い習得に繋がります。
ヘッドボイス練習の重要性と注意点
ヘッドボイスを習得するための自宅練習とコツについては、
・上記の『ミーティング中のあくびで出たヘッドボイス』のように「あくび」をしながら高い音を出す
・別記事『Vol.4 ヘッドボイスの出し方:高音を自在に操るテクニック』に記載している「深呼吸ハミング」
などを参考にされると良いと思います。
押さえるべきポイントは『喉・舌・下顎を力ませない』『音量過多にならない』という状態を維持しながら発声することです。
しかし、これらの独学練習のみでのヘッドボイスの習得は難しいかもしれません。
私の経験として、私は20代前半頃は指導者を持たずに、自主トレと仕事の現場での独学のハイトーン発声を続けた結果、声帯結節と声帯ポリープをそれぞれ二回ずつ経験する思いをしました。
そして、1995年に初めてロサンゼルスでのレッスンを受けて、帰国後2年間一人で練習しましたが、「指導者なしの復習」スタイルでは、ヘッドボイスやミックスボイスの完璧な再現には限界を感じ、指導者からのアドバイスと指導をコンスタントに受けることの重要性を痛感しました。
ヘッドボイスやハイトーンは共鳴振動も微細なため、独学での練習では、モニタリングし損ねやすく、すぐに「力み」や「音量過多」を起こし声帯を痛める可能性が高くなります。
確実に本当のヘッドボイスを習得するためには、まずは、正しい指導ができるボイストレーナーについて、目の前のトレーナーの指導する通りに発声と修正を繰り返しながら、ヘッドボイスの共鳴音と振動を自分の声と体で体験することが、安全かつ最短な習得方法だと思います。
タプアヴォイスアカデミー
Takayoshi Makino