ヘッドボイス完全ガイド:プロに見る種類と効果的な使い方
ヘッドボイスの種類と使い方
「ヘッドボイスをマスターしたい」「高音を出したい」という要望は簡単なように聞こえますが、実際には曲やフレーズに応じて異なるヘッドボイスの響きやニュアンスが存在します。
例えば、
「どの曲のどのフレーズに対してヘッドボイスを使用するのか?」
そのシチュエーションと目的によって、ヘッドボイスに対するチェストボイスやエッジサウンドのブレンドバランスなど、音の強弱はもちろん響かせ方のコントロールによって、ヘッドボイスの響きもさまざま異なってきます。
ヘッドボイスの響きの種類
一般的に、ヘッドボイスの響きには大きく分けて二つの種類があります。
【1.柔らかく透明な響きのヘッドボイス】
この場合、ブレスの圧を抑え、エッジの効いたサウンドを避け、後頭部から頭頂部にかけての上咽頭内の響きを重視します。より柔らかくしたい場合は、さらに頭部の響きを狙って呼気を吐き上げ、ファルセットの響きに近づけていきます。
【2.強い響きで前に押し出されるヘッドボイス】
この場合、音圧を強調するために下咽頭をしっかり開き、ブレスの圧を上げ、チェストの排気音とエッジサウンドの響きを上咽頭内で共鳴させ、額もしくは頭頂部から共鳴音を放物線状に飛ばすように発声します。
ヘッドボイスのバリエーション
ヘッドボイスのバリエーションは、単に大きく分けるだけではなく、共鳴音や音質の微調整によってさらに増えます。
ブレス圧の強弱によって、チェストボイスエリアの共鳴やエッジサウンドのバランスが変化し、ミックスボイス寄りの響きや、排気音を軸にしたファルセットの響きが生まれます。
そして、それぞれの響きには「ファルセット」「ハーフファルセット」「ミックスヘッド」「ベルティングトーンのミックスヘッド(声楽のアクートに近い)」などの名前が付けられ、個人によっては歌唱の中でさらに細かく調整されることもあります。
ハーフファルセット、ミックスヘッド、ベルティングトーンのミックスヘッドについては、ミックスボイスに属する響きとして捉え指導されることもありますが、これまでの個人的経験から、発声する音階がヘッドボイスの声区であれば、ヘッドボイスの共鳴を軸にブレンドすると解釈した発声の方が、声帯やその他の筋肉群の力みを避けやすく、安全だと思います。
ヘッドボイスの使い分け
「歌が上手い」とされるシンガーたちは、チェストボイス、ミックスボイス、ヘッドボイスを絶妙に使い分けています。以下に、お手本となるシンガーと楽曲の例を挙げてみます。
ヘッドボイスの使い分け方の実例
【Brian McKnight“Back at One”】男性シンガー
【Charlie Puth “The Way I Am (Acoustic)” 】男性シンガー
【Ariana Grande - Baby 】女性シンガー
【Maroon 5 ft. Rihanna - If I Never See Your Face Again】男女デュエット
ヘッドボイスの特徴と共通点
これらの動画の通り、素晴らしいシンガーたちは、チェストボイス、ミックスボイス、ヘッドボイスの響きを巧みに使い分けています。
そして、共通している点は以下の通りです。
・ヘッドボイスとミックスボイスの声区のつなぎ目をシームレスに移行させながら歌っている。
・単一のヘッドボイスではなく、ファルセットやハーフファルセットなど多様なヘッドボイスを使い分けて歌っている。
・力強いヘッドボイスも必ず「排気音(息が吐き出される音)」が鳴っている。
・ 一曲を通して極端に音量が大きくなったり、中音域と高音域で音量の落差が出るような箇所がない。
効果的なヘッドボイスの使い分け方法
これらの共通点からわかるのは、ヘッドボイスを使い分ける際に「喉(声帯)や下顎周辺は脱力に近いリラックス状態」で歌うことで、様々なヘッドボイスをバリエーション豊かに使い分けていることです。音圧の強いヘッドボイスにおいても、「喉(声帯)を締めて高音を出そう」とするアクションではなく、呼気圧を強めることで音圧を上げて強い響きを作っています。強いヘッドボイスの音色を出している時の首元を見れば、「吐く息の強さで首が膨らんでいる」という状態がよくわかります。
この喉・舌・下顎・首をリラックスさせた状態を保ったままでの歌唱スタイルが、チェストボイス、ミックスボイス、ヘッドボイスをシームレスに繋げ、音域や音量のバランスを保ちながら、バリエーション豊かな表現を可能にしています。
つまり、ヘッドボイスを効果的に使い分けることで、歌唱の幅が広がり、聴く人に感動を与えるパフォーマンスが実現できるのです。
ヘッドボイスの練習と注意点
ヘッドボイスは高音域の発声であり、誤った方法で響かせると声帯・鼻腔・上咽頭に、そして、音圧を過度に加えすぎた状態が続いた場合は耳にまでダメージを与える可能性があります。そのため、参考動画や資料を使用した自己練習は危険です。誤った練習を繰り返すと、声帯に悪い癖が付いてしまう可能性があります。
そのため、ヘッドボイスの響きを習得するためには、人によっては自分自身の意識や概念を修正する必要があります。
例えば、独学でのボイストレーニングに取り組んでいる際に「喉(声帯)を絞める」「喉仏を引き上げる」「目線を上に向ける」といったアクションを意識的に行っている場合、それらはヘッドボイスを含む発声全体において修正すべきポイントです。
これらの行為は、発声において声帯を傷めるリスクを高めるアクションであり、呼気圧やブレス量を多く使う「ヘッドボイス」の発声においては、リスク回避のためにも特に改善が必要です。
「喉を絞める」「喉仏を引き上げる」「目線を上に向けて声を出す」といったアクションを繰り返してきた人にとって、これらの修正はまさに「意識や概念の転換」を必要とします。しかし、このような「意識・イメージ・アクション」の修正や微調整が、声の出し方に大きな影響を与え、その結果、素晴らしい発声テクニックを習得していくことに繋がります。
安全な環境でのボイストレーニング
「意識・イメージ・アクション」を修正しながら、安全かつ効果的にヘッドボイスの練習に取り組むためには、定期的な対面式のレッスンを受けることが必要になります。指導者からのリアルタイムなフィードバックは、繊細で多彩なヘッドボイスの発声を正しく身につける上で非常に重要です。
そして、ヘッドボイスは単体で練習するのではなく、チェスト、ミックス、ヘッドの響きを包括的に練習し習得することが重要です。そうすることによって、歌唱時の音圧や音量、一曲を通した響きのバランス(コーディネーション)を整える感覚が身につきます。
ぜひ、プロの指導の下で安全で効果的なボイストレーニングを行い正しいヘッドボイスを身につけてください。安全な環境での練習が、声帯を保護しながらヘッドボイスの発声を可能にし、歌唱力を向上させる鍵となります。
タプアヴォイスアカデミー
Takayoshi Makino