声量を劇的にアップさせるポイントとトレーニング

声が小さい悩みを解消するボイストレーニング

ボイストレーニングによる代表的なベネフィットは
『バンドやオケの演奏に声が埋もれなくなった』
『声量が上がった』

というように声の響きを大きく出せるようになることです。

当アカデミーにレッスンを申し込まれる方にも、「声が小さいという悩みを解消したい」「喉が痛くならずに大きな声で歌えるようになりたい」「声量を上げたい」といった希望を持ってレッスンを始められる方が多くいます。

声量アップのために知っておくべきこと

では、声量とは一体何を指すのでしょうか?
そして、その声量はどのように作られているのでしょうか?
これらを理解することは、声量をアップさせるために非常に重要です。

声量とは何か?

声量とは、発声時に生じる音声(共鳴音)の大きさや強さを指します。これは生楽器と同じく、音の大小だけでなく『音の強弱』も示し、「音量」とも呼ばれますが「音圧」として表現されることもあります。そして、音の大きさや強さだけでなく、どれだけ遠くに音声(共鳴音)が届くかも示します。これにより「よく響く、よく鳴る」という表現で“共鳴の度合い”も示されます。

声量の仕組み

声量の大きさや強さは、発声時の「気道」や「声帯」にかかる空気の圧力や排気量で決まります。正常な発声では、声帯の振動の強さ(振動幅)や速度も声量に影響します。声量を上げるには、吐く息の圧力や排気量を増やし、声帯の振動をより強くすることが必要です。これにより音声の共鳴が大きくなり、それが声量の大きさそのものとなります。

声量の重要性

声量は、音楽、演劇、スピーチ、プレゼンテーションなど様々な場面で重要です。適切な声量は、聴く側に効果的にメッセージをより強く伝えることができます。逆に、声量が不足すると、聴く側に「聴き取りづらさ」「理解しづらさ」を感じさせる場合があります。

つまり、歌の声量を上げるということは、「声がどれだけ大きいのか」という意味合いよりも、「声がどれだけ遠くまで、そして隅々まで届くのか」という視点で捉えるほうが、その重要性と意味合いが明確に理解でき、声量アップのトレーニングにも好影響を与えます。

声量が上がることで、音が広がり、響き渡り、聴く人々に感動を与える力が増すのです。

声を大きくする基本ポイント

では、声の響きを大きくする(声量を上げる)には何をすれば良いのか。基本的なポイントをいくつか挙げてみます。

1.正しい呼吸法の習得

発声全般において呼吸は重要です。大きな声量を作るには、深い呼吸をし、十分な空気を取り込み、発声時に必要な空気の圧力を確保することが必要です。この際に、腹式呼吸の横隔膜の動き、リブマッスル(肋間筋)の動きが乱れないように意識することが大切です。そうすることで、安定的に呼吸量と呼気圧を増やし、増加させた音量と音圧が崩れることを防ぎます。

※発声の呼吸法には腹式呼吸以外にもいくつかの呼吸法があり、個々の声の特性やニーズに合わせて適切な呼吸法を選択することもあります。自分に合った呼吸法を見つけるためには、適切な指導者やトレーナーの指導を強くおすすめします。

2.声帯をリラックスさせる

声量を上げようとする際も、声帯を無理に緊張させないことが重要です。
緊張させた(力ませた)声帯では、正常な声帯振動が制限され、声量が制限されます。リラックスさせた状態の声帯を保ちながら呼吸量と呼気圧を増やすことで、共鳴腔を収縮させることなく声帯の振動がスムーズに大きく速くなり、その結果、喉に違和感を起こさないまま声量を上げることが可能になります。

3.声の投射

声を前方に向けて投射する意識で発声することで、聴く側に対してより強い声量を実現します。
「口を縦に大きく開ける」「声を遠くに飛ばすように意識する」「母音を体から離すようにする」など、口腔、鼻腔、口蓋を開放して、声の共鳴を呼気圧によって体外に最大限に投射します。

4.体の姿勢

声量を上げるためには、円滑に深い呼吸ができる「正しい姿勢」を保つことが重要です。
背筋を伸ばし、肩(肩甲骨)を下げ、上半身全体がリラックスした状態で声を出します。その姿勢を保って発声し続けるためには、腹直筋等の強化よりも、背筋群と下半身の筋力、持久力、柔軟性を高めることが重要です。

声の響きを大きくする感覚と練習方法

大きな響きを出す感覚

ここまでの解説をまとめると、声の響き(音量・音圧・共鳴の大きさ:声量)を大きくするための重要なポイントは2つです。

1.喉(咽頭)、口腔、鼻腔などの共鳴腔を大きく開く
2.吐く息の圧力(呼気圧)を上げること

これらのポイントは、歌だけではなく日常の中で実行される場面が様々あります。

例えば、
後ろから驚かされた瞬間に、思わず「うわ!」と大きな声を出してしまった、という場面を想像してください。この場合、非常に強い呼気圧だけで大きな声を出しています。
この声の出し方は、喉や声帯に力を入れているのではなく「大笑い」や「くしゃみ」をする時のように、共鳴空間を大きく広げ、強い呼気によって大きく響かせています。

この一例においても、共鳴腔(喉・口腔奥・鼻腔)を大きく広げ、強い息の圧力(呼気圧)によって大きな声を響かせていることが分かります。どんな場面でも、吐く息の圧コントロールが声量(声の大きさ)のコントロールと直結しているのです。

呼吸に重点を置いたトレーニング

呼気圧による声量のコントロールをマスターするためには、呼吸に重点を置いたボイストレーニングが有効です。呼吸機能、心肺機能のレベルアップを重視することで、効果的に声の響きを大きくしていくことができます。

呼吸重視のエクササイズの一つとして、以下の基礎練習があります。

・まず、肩(肩甲骨)を下げ、背筋と下半身で体を支え、上半身と声帯をリラックスさせたまま、深い呼吸を使って、ゆったりと「母音」もしくは「Hah」で発声する

・次に、その発声方法で1オクターブの往復をサイレンのように繋いで発声し、それを半音展開でキーを移調させて繰り返す

きちんとした指導者のもとでボイストレーニングを受けた事がある方なら、このような“深く大きな呼吸を使うトレーニングメニュー”は、トレーニング中や終了後には「若干の疲労感」「うっすら汗ばむ」「お尻の筋肉や足腰がだるくなる(辛くなる)」といった軽い運動感覚を感じたことがあるかもしれません。

まさに、この「体を使う」「大きく息を吐く」という感覚こそが声量を上げる、響きを大きくする感覚であり、喉や下顎や首を力ませる感覚とはまったく異なります。

体調と声の関係

声量を上げたい方はもちろん、あらゆるボーカリストの方々に押さえていただきたい、もう一つのポイントは「体の状態は声質と声の響きにダイレクトに関わってくる」ということです。

もし、あなたが「息が続かない」「声量がまだ足りない」と思うなら、呼吸が浅い、もしくは呼吸を浅くさせている状況が原因かもしれません。
肺活量の問題だけでなく、呼吸機能の動きが小さいことも声量に影響します。

その解決策として、ボイストレーニングレッスンに加えて、

・呼吸器系を鍛えるフィジカルトレーニング
・肩や首、顎の凝りをほぐす
・食習慣の改善

これらの取り組みが必要かもしれません。
まるでアスリート向けの内容のように思えますが、実はこれこそがボーカリストならではと言えるトレーニングメニューの特徴なのです。

「カラダ作りで声量が上がった」実例の紹介

私がボイストレーナーとして駆け出しの頃、ハードロックバンドのボーカルを担当する男性生徒さんがいました。彼の悩みは、声が細くバンドの音に声が埋もれ、スタジオリハーサルの段階で息が上がりやすく、音程がフラットしやすいことでした。

彼はもともと良い声を持ち、とても真面目で、レッスン後の反復練習も怠りませんでしたが、どうしても声量が上がりきらない状態が続いていました。

そこで、私は「スイミングとかやってみたら?ハードロックは普通以上に体力が必要だから!」とアドバイスしました。それは、体幹の強さと心肺機能の向上を狙ったものでした。

彼はすぐにスイミングスクールに通い始め、スイミングコーチの指導のもと週2~3回のペースで泳ぎ、体のメンテナンスの重要性にも気づいて食事内容も見直しました。その結果、わずか1ヶ月ほどで別人かと思うほどパワフルな声が出せるようになり、2ヶ月後には自分の発声の弱点をほぼ克服しました。

もちろん、これは一つの例であり、結果の度合いや経過日数には個人差がありますが、体が楽器である以上、心肺機能はじめ体の機能が高まれば発声のレベルが向上する、ということはほとんどの方に当てはまると思います。

実例から学ぶ声量アップの秘訣

実例エピソードの男性ボーカリストは、心肺機能や体幹を鍛えることで、声量を含む発声全般のレベルを上げることができました。彼がスムーズに目的を達成できたポイントは「スイミングコーチの指導のもとで訓練し続けた」という部分です。これはボイストレーニングにも100%当てはまります。

適切な指導者のもとで『喉に負担をかけず、喉を傷めず、声も枯れず、声量を上げる練習』のポイントを押さえた「正しいボイストレーニング」に取り組むことが、声量アップへの最短ルートです。

体全体を楽器として生み出す声の響き

ミュージシャンが自分の楽器を大切にするように、ボーカリストも声帯を含む体全体を楽器として大事に扱うことは重要です。

理にかなった日常的な練習とメンテナンスで体を鍛えることで、声量豊かなボーカルになれます。ボーカルも他の楽器と同様に音楽を構成する一部であり、ボーカリストとミュージシャンが互いにそこを認識することで素晴らしい演奏が生まれます。

ボーカリストの皆さんには「自分という楽器」の扱い方を正しく知り、大切に扱ってほしいと思います。

タプアヴォイスアカデミー
Takayoshi Makino