バンドの音量に負けないボーカルテクニック
バンド演奏でボーカルを際立たせるために
バンドで歌っているボーカリストからよく受ける相談に、
「ライブやスタジオでバックの演奏の音量に声が負けてしまい、自分の声が聞こえない」
というものがあります。
また、「バンドメンバーからボーカルが聞こえにくいと指摘される」といった悩みも多いです。
よくある質問として、「もっと大きい声を出せるでしょうか?」というものもあります。
私の個人的な返答としては、
「そのバンドの演奏を実際に聴いてみないと厳密には言えないけれど、試しに一度バックのメンバーに音量を下げてもらってみたら?」
と答えます。
私の経験では、ありがたいことに当時(20代)の私の周囲にはボーカルに合わせてくれるミュージシャンが多かったおかげで、ライブやスタジオリハを繰り返していく中で適切な音量感覚を養えました。
効果的な音量バランスの取り方
生声の音量の限界とマイクの活用
実際に、生身の人間のカラダだけでどれくらいの音量を出せるのでしょうか? 当たり前ですが、生の声の音量はアンプやエフェクターで増幅させたロックギターの音量に敵いません。
しかし、マイクを通す前の「生の声」を最大限のパフォーマンスで出せて、それを“こぼすことなく”マイクに乗せることができれば、そのマイク声量を基準にバンド全体のバランスを取ることができます。
自分の発声を見直す
バンド全体(レコーディングやライブでは音響エンジニアも含む)で音量バランスを取ってくれようとしても、まだ声が埋もれる、もしくは籠ってしまうのなら、ボーカル自身の発声を見直す必要があるかもしれません。
しっかりと音量・音圧・声の響き、声量のアップと、「歌が演奏に埋もれないためのテクニックの習得」を目的としたボイストレーニングに取り組むことで解決できるはずです。
ボーカリストは自分のカラダが楽器
「バンドの音量・音圧に埋もれないように歌う」という課題に向き合う上で再認識しておくべき点は、『ボーカリストは自分のカラダが楽器である』という考え方です。
ボーカリストの体調管理
例えば、ギタリストはギター、ドラマーはドラムという楽器を使って音楽を奏でます。
そして、ボーカリストは『自分の肉体という生楽器』を使って音楽を奏でるミュージシャンだと考えるべきです。
つまり、重要なのは、ドラム、ベース、ギター、生ピアノ、弦楽器、管楽器などと同様に、音響機材に通す前の「生音(なまおと)」が最大限のパフォーマンスで出せる状態であることです。
具体的に言えば、
「声帯はじめとする全身のコンディションが整っていて、良いパフォーマンスを披露できる状態」が、歌うため(カラダという楽器で音楽を奏でるため)の準備状態だと言えます。
力まかせな発声のリスク
寝不足、肉体疲労、風邪気味、鼻詰まりなどの体調は、例えば自分の体をギターだと置き換えて考えれば、良い音が鳴らせて思い通りのプレイができるギターコンディションではないと判断できると思います。
にもかかわらず、思い通りのプレイができないといって、力まかせな荒いプレイをすれば更に酷い演奏になり、ギターの場合なら「弦が切れる」などのトラブルを引き起こすかもしれません。
ボーカルも同じです。声がバンドの音に埋もれてしまうといって、音量を大きくしようと『喉がヒリつくほどの大声で叫ぶ(シャウトする)』というような力まかせな乱暴な行為は避けるべきです。
頻度や状況によっては、楽器が壊れるのと同様に、声帯を傷めてしまう可能性があります。
そして、忘れてはいけないことは、『声帯は他の楽器のパーツように、壊れて鳴らなくなったからと交換して直せるものではない』生身の肉体の一部だということです。
バンド演奏で埋もれない声の出し方
ここまでの解説から、無理をせず生声の音量をアップするには、声が出る仕組みを知り、正しい発声法をマスターすることが大切だということが分かると思います。
声の出る仕組みと共鳴の重要性
声が出る仕組みは、まず喉頭部の声帯に息を吹き付けることで声帯振動が発生します。
この時点ではまだ小さな振動音でしかなく、声とは言えません。
その振動音が咽頭腔、鼻腔、その他の共鳴腔で共鳴し、口腔内の形状と相まって「声(言語)」として呼気とともに体外に発せられます。この共鳴音を「声」と呼びます。
例えば、
屋外で手を叩いても小さな音ですが、浴室で同じように手を叩くと大きな音になります。
「声帯振動音=手のひらの打突音」と「共鳴音=浴室内での反響音」と考えれば、『声(共鳴音)を大きくするには、共鳴腔を広げてそこを無駄なく共鳴させるテクニックが大切なポイント』だということが分かると思います。
生楽器のほとんどは共鳴音(レゾナンス)がその楽器の音色であり、音量コントロールは共鳴のさせ方の調節によって行われます。
つまり、ボーカルも「声」という共鳴音(レゾナンス)で音楽を奏でる楽器なので、音量コントロールは他の生楽器同様に共鳴のさせ方のコントロールと考えて良いのです。
共鳴音を響かせる発声練習
つまり、歌声の音量・音圧を大きくするためには、
「声帯の振動音を大きくしようとするのではなく、いかに大きな共鳴音を響かせるか?」
にフォーカスした発声練習が重要です。
良い成果を出すためには、声帯のコンディションだけでなく、心肺機能や呼吸を支えるための下半身や背中の筋力やを高めることも必要です。
『歌声を大きくしたければ、叫ぶような行為や、声帯に力を入れて音量コントロールしようとするのではなく、共鳴腔の響きを大きくする発声練習をする』
これが、バンド演奏にボーカルが埋もれないためのポイントです。
タプアヴォイスアカデミー
Takayoshi Makino