本当のチェストボイスと呼吸の重要性

■チェストボイスの響きは発声の基本

歌うことが好き、歌が上手くなりたい、プロを目指しています、という方々にとって「ミックスボイス」や「ハイトーンボイス」は、なにかにつけて意識して練習する声の響きだと思いますが、それにくらべ「チェストボイス」は、プロを目指してボイトレを受け続けている方でさえ「あまり意識したことがない」というくらい、なかなかおろそかにされやすい響きです。

この記事を読まれている方の中には「チェストボイス」という名称が初耳だという人も居られるかもしれないしれないですが、簡単に言えば『チェストボイス=胸の辺りを響かせるような低い声』と考えてもらえれば良いと思います。

そして、チェストボイスはただ単に「低い声」なのではなく、発声全体においてとても重要な要素を受け持つ声であり、響きです。

その実例として、チェストボイスを正しくチューニングすることで「ミックスボイス」はもちろん全音域の「声の詰まり(息苦しさ)」や「発声の歪み」を一気に修正出来てしまうこともあるくらい、発声において「チェストボイスの発声」を正しく認識しマスターすることはとても大切になってきます。

今回は、その「チェストボイス」ついてお話ししていきます。

■チェストボイスを正しく聴き分けられますか?

今回の本題である「チェストボイスの解説」に入る前に、まず押さえておくべき大事なポイントがあります。

それは、『正しくチェストボイスを聴き分けられているかどうか?』という部分です。

誰かの歌やセリフを聴いたままマネしようとしても、しっかり聴き取って正しく特徴をつかめていなければ『マネをしているつもりだけど全然似てない』ということになってしまいます。「チェストボイス」を正しく聴き分けられるかどうかもまったく同じことです。
『チェストボイス』という声が一体どういう響きを指しているのか?その解釈が違えば聴き分ける分別も全く違ってしまい『出してるつもりが全然違う』ということになってしまいます。

そうならないためにも「正しいチェストボイスを知る(聴いて覚える)」ことがチェストボイスを習得するためのスタートとなります。

■正しい発声が正しいチェストボイスを作る

「正しいチェストボイス」を知るためにも、まず「発声」という原点の部分について確認しておきましょう。

「発声」とは文字どおり「声を発する行為」を指します。

では、人はどうやって声を作り出しているのでしょうか?

その流れを解説すると下記のようになります。

『声帯の振動音は、気管から咽頭へと排気される息(呼気)によって喉頭内(甲状軟骨内)にある声帯が振動する。その振動音(まだ声とは呼べない音)が咽頭全体と口腔内、鼻腔、胸部、頭部などを共鳴させる。その共鳴音のことを声という。』

上記の文章で「息(呼気)によって…」と書いたとおり、声は息を吐くことで発生します。間違っても声帯自体が自律的に動いて振動音を作るわけではありません。

このように、基本的な良い発声の状態というのは『力みや息苦しさを感じさせない、空間の共鳴音が響いている』という状態のことを指します。そして発声させる声の音域や音圧によっては、その共鳴の振動は胸や背中、もしくは後頭部や頭頂部などで感じることもあります。

その音域(声区)の中で『チェストボイス』の共鳴振動は胸部周辺に集まる響きなので、他の声区の発声よりも比較的わかりやすく感じられるのですが、この「胸部の振動」の有る無しだけで「チェストボイスが出せているかどうか?」を判断しようとすると発声を間違いやすくなります。
胸元で振動を確認しようとした時によくある間違ってしまうパターンは、「深呼吸のような呼気の吐き出しによる声帯振動」ではなく「咳払いのような唸り声的な声帯振動」でチェストボイスが出ていると判断してしまうパターンです。

耳での聴き分けにおいても同様ですが「呼気の吐き出し(息の排気音)の共鳴音、反響音、空間音」なのかどうかが「正しいチェストボイスが出せているかどうか?」の判断基準です。

つまり、
『ノドを全開状態(オープンスロート)にして、たっぷりの呼気で響かせる排気音をともなった中~低域の音声(共鳴音)』
それが『チェストボイス』
と呼ばれる音声です。

そして、この「喉を全開状態(オープンスロート)にする」というアクションは、チェストボイスだけでなく、全ての音域(全声区)においても重要なポイントでもあります。

■本当のチェストボイスの感覚と実例

チェストボイスを出す練習の際に注意すべき点として
①「単なる低音ではない」
②「響きを大きくすることは、音量を大きくすることではない」

という点を忘れないことです。

小さな音量の声でも「オープンスロート状態で息をたっぷり吐いてしっかりチェストを響かせた声」は出せます。

その代表的な例が「あくびをした時に思わず出してしまった声」です。

さらに「あくび」よりも小さな音量でも、しっかりとチェストボイスの響きが出せている一例が『脱力した状態でのため息』です。

がっかりした時のため息を思い出して頂けば分かりやすいのではないかと思います。

これらの例から、チェストボイスの響きの感覚が、いかにリラックスした感覚なのか、いかにノドを開きたっぷりの息を使う感覚なのか、が想像いただけると思います。

その逆とも言える「ノドを開かず息の吐き出しを意識せず力んだ状態」で、低音の響きを大きくしよう、さらに低い音を出そうとすると、大抵の人は

  • どんどん顔を下に向けるような姿勢になり
  • ノドを締め固める力みが強くなり
  • 「息苦しさ」「ノドが詰まる感覚」が強まり

結果、それ以上声が出せなくなるはずです。

その理由は、声帯周辺の筋肉にも必要以上の力が入り「声帯の振動」を邪魔するアクションとなって、その結果、声が止まります。

意識すべき感覚はあくびやため息のように「ノドを開く」感覚です。
あくびやため息の時のように大きく口腔内とノドを開けば、たっぷりな量の息を使うことが可能となり、その結果として、声帯の振動音が最大となり、大きく開かれたノド(咽頭全域)の空間で反響し、息苦しさやノドが詰まる感覚もなく低い音階でもたっぷりとした響きのあるチェストサウンド本来の響きが出ます。

■歌でのチェストボイスの実例

ではチェストボイスがどんな響きなのか?

分かりやすい曲や参考動画を添付します。一度聴いてみてください。

まずは、

[Official Video] Daft Punk - Pentatonix

つづいて、

【Bass Battle/UPGRADE】 Avi VS Tim VS Geoff (only low notes)

これらの動画の中で出している排気音をともなった低域の声が、まさに代表的なチェストボイスの響きです。 (曲中のbassパートの場合、最初は少々聞き取りづらいと感じる方がいるかもしれませんが、何度も耳を傾ければ低域の響きが必ず聴こえてきます)

ノドを締めたままの発声ではこれらの響きや、ミドルCから2オクターブ下のCやさらに下のBの低域音階などは出せません。

これらの音声こそが、『声帯も周辺筋肉群(舌や顎や首など)を力ませず、たっぷりな量の息を使って声帯を振動させ、その振動音を大きく開かれたノド(咽頭全域)の空間で共鳴させる』という発声による『本当のチェストボイス』です。

■チェストボイスと地声は別物

では、間違ったチェストボイス(ノドを締めたままで呼気と共鳴音の響きを無視した声)とはどんな声になるのか?

その代表的な響きが、
日本で一般的に「地声」と呼ばれる発声の状態です。

ここから先の解説で混乱を避けるため、ここで押さえておきたいポイントは

『地声とチェストボイスはまったくの別物』

ということです。
※チェストボイスは「地声」のことではありません。

地声状態になる大きな要因の一つは日本語の発声パターンです。

日本語は『母音で音(言葉)が終わる』言語です。

例えば、

「ありがとう」という言葉をローマ字表記すると

「a 、ri 、 ga 、to (to 、o)」

という表記になります。

お気づきになった方もおられるかもしれませんが、これを声に出すと、すべて母音を強調して、言葉の終わりも母音で終わります。(母音のままで音を切ります)

つまり、「ん(n)」で終わる言葉以外、母音で音を止めないといけない言語が日本語なのです。

日本語の発音発声は『母音を強調する、母音で音を止める』という言語のため「声帯を締めて(声門を閉じて)音を止めて、また開いて振動させて・・・」というアクションを頻繁に繰り返してします。そのため声帯や周辺筋肉群への負担が大きくなります。そして子音の響きを多用する英語やフランス語等と比べると「排気音や共鳴音」の響きよりも「声帯の振動音」が前面に出てきやすくなります。

これが日本語特有の「地声」と呼ばれる発声状態です。

その逆で、英語という言語は「子音の響き」を主体に話します。 子音を響かせるだけの息を吐こうとすると、無意識に咽頭と声門を大きく開きます。そして大量に吐いたその息が声帯を振動させ、それが「母音」となります。

そして次々と子音に響きを作ろうと息を吐き続けるため、咽頭も声門も開いたままになるので声帯も振動し続け、母音の響きは言葉や単語のフレーズが終わるまで鳴り続け、言葉の終わりはほとんど『子音』を鳴らして終わります。(子音止め) つまり、声帯を締めて声帯振動を止めるアクション(母音止め)がほとんど起きないのです。

これは正しいチェストボイスが出る発声状態であり、先で解説した「地声」とはまったく異なる発声状態であることがお分かりいただけると思います。

■正しいチェストボイスのトレーニングでノドを守る

日本語という言語を使う私たち日本人であれば、多かれ少なかれ皆んな無意識に『母音(アイウエオ)を強調して話す、歌う』『言葉を母音止めで終えようとする』という発声のクセがついています。

この日本語(カタカナ)的に『母音を強調する』というクセを修正しないままで、低音の音声を響かせようとすると
「喉を詰まらせたようなピッチが合わない声」
中~高音域の声を強く響かせようとすると
「張り上げるような声・叫ぶような声(爆音状態、シャウト状態)」
「突然、ウラ声に切り替える(意図せずひっくり返る)」
「高音からの下降ライン(音階が降りてくるメロディー)のピッチが外れる」

というような歌い方になりやすいです。

そして、それらのアクションを繰り返しすことは「ノドを痛めてしまった」「高い音が出せなくなった」「声がつぶれてしまった」などの音声障害を引き起こすリスクを高めることにもつながります。

これらの原因は「息を吐くよりも声帯(ノド)に力みを入れてしまう」という間違った発声アクションによるものです。

ついついミックスボイスやヘッドボイスの習得に意識を持っていかれやすいですが、「オープンスロートのまま、力まず、大声にせず、吐く息でチェストボイスを響かせる」という発声を習得することが、結果的に発声全体の「悪いクセ」の修正を早め、音域も広がりやすくなり歌いさすさにつながります。

(個人的な意見を言えば、シンガーだけでなく、俳優、司会、という声を使う職業の方であれば、全員意識すべきポイントだと思います。)

全音域の声をスムーズに出すための必須ポイントは

【チェストボイスを出せるオープンスロートのフォームと、そのフォーム全体を共鳴させるだけの息を吐くこと(ブレス)】

これが本来のチェストボイスのサウンドであり、チェストボイスが他の音域(声区)の発声にどれだけ関わってくるか、その重要性がご理解頂けたと思います。

願わくば、この記事を読んで「知識を得た」をいうだけで終わらずに、ご自身が正しいチェストボイスのトレーニングに取り組んでいただければと思います。

もしあなたが、正しいチェストボイスの習得はもちろん「正しい発声で歌を上手く歌えるように一日も早くなりたい」と思われるなら、当アカデミーの体験レッスンを通してトレーニングさせていただきます。

「チェストを響かせる」という感覚を、ご自分の耳とカラダで実体験することが、もっとも確実に正しくマスターするコツです。

きっとチェストボイスについてだけでなく、ボイトレや発声についての様々な疑問の解消にもつながっていくと思います。

もちろん、ご希望であればミックスボイスやヘッドボイスまでしっかりチューニングさせて頂きます。

それではまた。

タプアヴォイスアカデミー
Takayoshi Makino