正しいミックスボイスの出し方と感覚とは

■ミックスボイスを20年以上教え続けて

タプアが開校したのは1997年。そこから20年以上ずっと日々ミックスボイスを含む様々な発声テクニックをお教えしてきました。
開校当時の日本のポピュラーミュージックの中では『チェストボイス・ミックスボイス・ヘッドボイス』という声の概念や名称はほとんど耳にすることはありませんでした。世間で使われていた声の区別用語は「地声、裏声」くらいで、その頃私がレッスンで「ミックスボイス」という名称を口にしても、レッスン受講者からは「それなんですか?」と質問され、そのつど解説していたような状況でした。

しかし、近年の日本では「ミックスボイス」という名称は、シンガーを目指していない方でも聞き覚えがあると言うくらい浸透してきたようで、個人的にとても感慨深く嬉しく思っています。

ただ、残念な部分は。。。
今の日本人シンガーの歌を聴く中で「ミックスボイスのつもりが、ちょっと違う響きになっちゃってる」という歌声の方がまだまだ多く、これも今の現状かと真摯に受け止めています。

そこで今回は、『本当のミックスボイスの概念』『出し方(響かせ方)の判断ポイント』などについて、私の経験をふまえてお話ししていきたいと思います。

■勘違いしたミックスボイスの発声状態とは

「ミックスボイスは出せてると思います」と自己申告されたが、歌ってもらうと『それちょっと違うんだよなぁ』という声の状態。
そしてその場で、その方の『ミックスボイスの発声の勘違い』の部分を事細かく修正して、正しいミックスボイスの響きを自分の声で実体験させてあげる。

長年、このパターンのレッスンを数え切れないほどやって来ました。

『なぜこのようなことになるのか?』
レッスンでのやり取りの中で気付いたことは
『この人は、ミックスボイスが出せるようになろうと取り組んでいるどこかの段階で、ミックスボイスそのものの概念自体を大きく勘違いしてしまっている』
という点でした。

そして、これら『勘違いしたミックスボイスの発声状態』に陥っている方に、とても多く見られる「響かせ方の勘違い」の特徴をあげると、大きく分けて2つあります。
それは、

  • 不自然な鼻周辺の響かせ方
  • チェストボイスを無視した発声

このどちらかの状態に陥っていることが原因で、正しいミックスボイスが出せなくなっているケースがとても多いようです。

【特徴①】鼻周辺の響かせ方の勘違い

よくある具体例をあげると

  • 鼻骨ばかりに音を寄せて(当てて)響きを作ろうとしている
  • 鼻から声を抜きすぎている
  • 口の奥(軟口蓋:ソフトパレットの周辺)に声を籠らせて響きを作っている
  • 鼻が詰まった響きになっている

これらのいずれかの状態で歌っている(発声している)パターンが非常に多いです。

ミックスボイスの響きを作るために「鼻から上の部位(エリア)」は大事な要素ではありますが、「顔面上の鼻」(目に見えている鼻)に意識を向け過ぎると、間違った発声アクションになってしまい、上の4項目のような発声状態(なんちゃってミックス状態)になります。

正しいミックスボイスの響きを出すための条件として、「声を響かせるべき『鼻から上のエリア』の正しい位置」を知ることが重要です。

そのエリアを厳密に言うと
「鼻内部の鼻腔のまだ奥(後ろ)の上咽頭という空間」
ここが本当のミックスボイスを出すために不可欠なエリアであり、音声を当てようと狙うべきスポットは『鼻骨周辺ではなく鼻腔のまだ後ろ側(上咽頭)』です。 そして、このエリアこそが「ヘッドボイス」の響きを作るエリアです。

しかし、これが出来るようになっただけでは「ヘッドボイスばかりに偏った声」「鼻に引っかけただけの声(響き)」いわゆる「ケロケロボイス」みたいな声になってしまいます。つまり「なんちゃってミックス」状態は、限りなくこれに近い状態になっているということです。

この「ケロケロボイス的な声」を出している方のほとんどに共通しているのは、 『チェストボイスの重要性』を認識しないままミックスボイスを出そうとしているという状態です。

これらが、私がこれまでに数え切れないほどレッスンをしてきた中で、圧倒的に多かったケースです。

【特徴②】チェストボイスを無視する発声の勘違い

「正しい位置で響かせるヘッドボイス」とあわせて不可欠なミックスボイスの条件。それは「チェストボイス」です。

本来のミックスボイスの概念を大雑把に言うと、
『チェストとヘッドの響きがミックスされた声(響き)』
です。

1995年に私がロサンゼルスでセス・リグス氏の自宅レッスンで直接教えてもらったミックスボイスの最初の説明は、
「チェストとヘッドの響きをミックスさせるからミックスボイスと言うんだよ」
この方がミックスボイスという名称を最初に口にした本人であり、その語源者であるご本人が面と向かって私に説明してくださった内容なので、そう説明された私は否定のしようがありません(笑)

上記をふまえたうえで結論を言えば、
「正しいチェストボイスが鳴らせていなければ正しいミックスボイスの響きにはならない。」
ということです。

■正しいチェストボイスの響きとその重要性

そして、この本来のミックスボイスの概念を押さえたうえで、重要なことがあります。

ものすごく大前提の話しになりますが、

『そもそも、チェストボイス、ヘッドボイス、それぞれどういう響きなのかを知っていますか?(聴きわけられてますか?)』

ここが曖昧なまま(体得・習得・理解が曖昧なまま)では、本当のミックスボイスを出すこと以前に、マスターすること自体がかなり困難になってしまいます。

まず、ヘッドボイスはチェストボイスに比べて聴き取りやすい響きであり、それに加え最近流行っている楽曲も影響しているのか、「ヘッドボイス」に近い響きを歌中で使っている(鳴らせている)という方は、私のレッスンに来られる方の中にもよくおられます。
とは言え、「近い響き」と表現したとおり多くは未完成な状態なので、そのままでは正しいミックスボイスの響きを作る要素としてはむずかしいというケースが多いです。
※ヘッドボイスについては別の記事でテーマを絞ってお話ししています。この記事の最後にリンクが貼ってありますので、詳しくは是非そちらをお読みください。

しかし、それ以上に残念なのは『チェストボイス(響き)を正しく鳴らせていない』という人は、ヘッドボイスを響かせきれてない人よりも圧倒的に多いのです。

その多くの理由は、チェストボイスを単純に「音階上の低い音の事」という認識で捉えていることです。

では「音階上の低い音だけを指してないなら何を指しているのか?」

その質問への答えは『低い周波数帯の響き(共鳴音)』です。

耳に聴こえる響きで表現すると
『排気音をともなった太い響き(喉を開いた状態の音)』という感じになります。
「低い」と同時に「太い」が伴わなければチェストボイスとは言えないのです。

私の師匠であるBilly Purnell (Tori Kellyはじめ全米著名アーティストを受け持つトレーナー)もミックスボイスに関するエクササイズを施す場面では、必ずチェストボイスの響き具合をチェックします。

それほど『正しいチェストボイスの響き』はミックスボイスにおいて大事な要素なのです。
※チェストボイスについては別の記事でテーマを絞ってお話ししています。この記事の最後にリンクが貼ってありますので、詳しくは是非そちらをお読みください。

■チェストボイスを意識せずに出すミックスボイスの危険性

チェストボイスを意識しない状態でミックスボイスを出そうとすると、鼻から上のエリアに響きが集まり過ぎてしまい「ケロケロボイス」みたいな声になってしまいます。
それ以上に懸念すべきは、その発声のままで『強くて高い声(ミックスボイスのつもり)』を出そうとすると、声帯・ボイスボックス(甲状軟骨等)周辺の筋肉群に過剰な負荷をかけることになり『出し終わると、喉がヒリヒリする、喉が苦しくなる、声がかすれてしまう』など、結果として『喉(声帯)を傷める』ことになりかねないのです。

そうならないためにも「チェストボイスの響きを保ちつつ」という発声が、ミックスボイスの響きを出すための重要な条件になります。

チェストボイスとヘッドボイス、それぞれを正しく出すことで初めて「ミックスする(混ぜる)」ための条件が揃ったということになります。では、その2つの響きをどうやって混ぜればよいのか?

その答えは『呼吸:ブレスコントロール』です。
とは言え、それについて話すと長くなりますので、それはまた別の機会にお話しさせていただこうと思います。

いずれにせよ、まずは「正しいチェストボイスとヘッドボイス」が出せるという条件を整えることが、本当のミックスボイスをマスターするための大前提だと認識していただくことが大切なポイントです。そしてそれは「喉(声帯)を傷めてしまうリスク」からあなたの喉を守ることになるです。

■プロシンガーがミックスボイスを求める理由

なぜ、歌うことを職業とするプロシンガーの多くがミックスボイスをマスターしたがるのでしょうか?その理由のほとんどは『喉全体(声帯)に負担をかけずに、力強い中・高音を出したい』という理由です。

本来ミックスボイスは『喉全体(声帯)が楽な状態のままで力強い中・高音を出す』ということを目的として、多くのプロシンガーがその発声方法を体得しようとします。

ということは、正しくミックスボイスが出せているのであれば、喉が「締まる、つまる、苦しい、引きつる、etc…」というような感覚を感じることはありません。
ミックスボイスが正しく出せている時の体感の目安は『喉(下咽頭周辺)はひたすら息を排気し続け、上顎を中心とした頭部全体が振動して強い中高音が鳴っている』という感覚です。

つまり、正しいミックスボイスが出せている時の感覚は「喉が楽なまま」なので、「歌っている最中に、喉に圧迫感や締めつけ感、引きつり感などを感じる」ということはミックスボイスになっていないと判断して良いです。

この感覚の発声が出来るようになるために、チェストボイス、ヘッドボイスを正しくしっかり鳴らすための練習、「チェストとヘッドの響きをミックスする(混ぜる)」ための練習が重要になってくるのです。
その練習を積み重ねていくことが、海外アーティストと同じ「正しいミックスボイス」で歌えるようになるための大きく確実な一歩になります。

  • 本当のミックスボイスはどんな声なのか?
  • 本当のチェストボイスはどんな声なのか?
  • 本当のヘッドボイスはどんな声なのか?
  • 本当のミックスボイスを出す感覚はどんな感覚なのか?
  • 自分が正しくミックスボイスが出せているかどうか不安がある
  • ミックスボイスの情報が多すぎて分からなくなってきた
  • ちょっとだけ習ってみたけどずっと出来ないままでいる

あなたがこのいずれかに当てはまるのであれば、是非タプアヴォイスアカデミーの体験レッスン(発声診断)にお越しください。

ミックスボイスの実体験はもちろん、発声診断とアドバイスもさせていただきます。Skypeを使用したオンライン形式での受講も可能です。ご遠慮なくお申し込みください。 せんえつながら私もキャリア20年以上のプロアーティスト対応ボイストレーナーの一人として、ご指名いただけばいつでも「あなたのミックスボイスを引き出すお手伝い」をしっかりさせていただきます。

もしかすると、あなた自身が初めて耳にする「自分の声」を体験することになるかもしれません。

一人でも多くの人に「正しいミックスボイスを使って歌をラクに歌う」という感覚を得てもらいたいと願っています。

タプアヴォイスアカデミー
Takayoshi Makino